カシナガのマスアタック前の“先制対策”で被害防止/箕面・ナラ枯れプロジェクトチーム
ド ングリの木の伝染病・ナラ枯れと闘う箕面のボランティア組織「ナラ枯れ防止プロジェクトチーム(NPO山麓委員会内)」が、この病気を媒介する昆虫・カシ ナガ(注)によるマスアタック(大量攻撃)の「前触れ」=“少数のオス(先兵?)の侵入”をいち早くキャッチし、被害防止への“先制対策”に取り組んでい ます。
(注)カシナガ:正式名:カシノ ナガ キクイムシ。甲虫の1種で体長約5mm。新成虫が梅雨明け頃に飛び出し、コナラなどドングリの木に大量に取りつき樹木を枯します。
★ “オスの侵入”を発見 ★
ナラ枯れシーズン幕開けを控え警戒を強めていた同プロジェクトチームが、6月下旬に昨シーズンの被害木(処理済み)付近などを点検中に、新しいフラス(木くず)が出ている木を見つけました。
調べると、最近、カシナガが穴から出したとみられるフラスはやや細長い繊維状で、侵入しているのはオスと推定されました。
これは、数百~数千のカシナガ新成虫が穴を開けて侵入するマスアタックの「前触れ」(下記の①の段階)とみられます。
同プロジェクトチームでは、関係者に通報するとともに、放置すると多数の仲間を呼び寄せる可能性が高いので、急いで先制的な「応急対策」を取り出しました。
★ カシナガのマスアタック後、1~2週間で樹木が枯死 ★
カシナガは、次のような流れで病気を伝染するとされています。
①【6~7月】新しい樹木へ“少数のオス”が移って侵入、集合フェロモンを発散。
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②【7~8月】フェロモンに吸引され、多数の成虫が集中して侵入(マスアタック)。
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③ 穴の中でオス・メスが交、多数の産卵・幼虫が生まれます(1つの穴に1つがい)。
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④【8月~】メスが背負って来たナラ菌が樹木内にまん延、樹木の水分上昇を妨げます。
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⑤ マスアックの1~2週間後に、樹木が枯死(枯れないこともありますが・・)。
(参照:『ナラ枯れ被害対策マニュアル』平成24年3月版。一般社団法人 森林総合研究所)。
★ ビニールシートなどを巻き、応急対策-教学の森などで ★
7/9(月)に教学の森で行われた同プロジェクトチームの緊急の調査と応急対策との様子です。
午前中に箕面山麓西部の「教学の森」に、同プロジェクトチーム座長の竹田さんら3人が到着。
ここの市立青少年野外学習センターから連絡のあったコナラの大木(直径48cm)を確認、フラスの状態からカシナガのオスの侵入とみられましたが、樹液 が出ていてスズメバチが数匹集まっており、危険を避けるためハチがいなくなる夕方に黒シートを巻き付け防止するようセンター側に依頼しました。
続いて西尾根コースへ、淡路島が見える眺望点付近で、クヌギの株立ち2本への被害を発見【写真・上】。
1本(直径23cm)には高さ4m付近まで点々とフラスが・・、やはりオスと推定。
野外活動センターからハシゴを借り、高さ3m付近まで黒ビニールシートを2重3重に巻き付け、ビニールテープで貼り合わせます【写真・下】。
もう1本(直径43cm)はカシナガの侵入は根元付近だけでしたが、念のため高さ1.5m付近まで粘着テープ(「かしながホイホイ」)を巻きつけました。
さらに、すぐ近くのコナラの2本(共に直径45cm)にも根元にわずかな侵入跡を見つけ(やはりオス)、こちらは白の柔らかい粘着テープを小さく切り、絆創膏(ばんそうこう)風に貼り穴を防ぎました。【写真・中の左】
★ 6月下旬~7月上旬の間に、21本を発見・対策 ★
同プロジェクトチームによると、6/25~7/11間に山麓部のしおんじ山・善福寺が原・勝尾寺参道(古参道を含む)・教学の森・谷山尾根で、こうしたオスだけとみられる侵入木約20本を発見(株立ちも1本ずつとして)、いずれも先制的に応急対策をとったといいます。
梅雨明けとともに本格的なカシナガのマスアタックが始まるとみられます。
今回の応急対策による(先兵的な)オスだけの侵入の段階での封じ込めの効果はもう少し見極めが必要ですが、その樹木への今後のマスアタックが防止され、またオスはナラ菌を運ばず、その樹木のナラ菌繁殖による枯死や次世代の大量増殖を防ぐのに効果があるとみられます。
■【解説】注目される-箕面での「早期発見」の進化 ■
箕面のナラ枯れ対策の特徴は、林野庁+大阪府+箕面市+NPO&ボランティア(中心はナラ枯れプロジェクトチーム(NPO山麓委員会内))がスクラムを組んで、「早期発見」「徹底処理(伐採・くん蒸など)」体制をとっていることです。
この中で、ボランティアはリタイア層を中心に機動力を発揮し、必要に応じて人海作戦がとれるという特徴を生かし主に「早期発見」の役割を果たしています。
その「早期発見」は、効果的に進化しています。
★(1)「1本レベル」の発見
全国的には、概ね数十本の枯死木発生レベルでの発見です。これに対しボランティアの目による調査が広く行われている箕面では被害が始まった一昨年から初期の「1本レベル」で発見(如意谷のアラカシ被害)、その後もほとんどは1~数本レベルで発見・処理しています。
★(2)「生存被害木レベル」の発見
当初から箕面ではカシナガ侵入後もずっと枯れない「生存被害木」について、全国的にはやや軽視される傾向の中で重視し、次々と発見し対策をとっています。
アラカシなどの樹種は、被害を受けても枯れにくいのですが、放置すると翌年にはそこからの大量発生につながる可能性があります。
★(3)「マスアタック前レベル」の発見
今年から、始まりました。全国的な『対策マニュアル』などでも触れられておらず、注目される取組とみられます。
こうした「早期発見」の進化は、NPO山麓委員会とナラ枯れプロジェクトチームとが、『マニュアル』を参考にするとともに、国や先進地の試験研究機関、 関係の薬品会社などと頻繁に先端的な情報を交換し、現地でも熱心に観察・調査・実験などする“姿勢”があることから生まれるといえるでしょう。
【写真・上】
オスとみられる侵入がいち早く発見されたクヌギ。
青いのは地衣類やコケ類、点々と広がる肌色のものがフラス(カシナガの侵入穴)。
【写真。中】
左:穴がわずかなため、とりあえず白い粘着テープを貼り付けて・・。
右:応急対策中のナラ枯れプロジェクトチームのメンバー。
【写真・下】
応急対策を施した被害木(クヌギ)。
黒いビニールシートや粘着テープで、被害部分の大半を被っている。
(いずれの、7/9(月)に「教学の森」で)